またひとつ素晴らしい反戦映画が生まれた。
反戦映画の名作と言えば、私は1966年フランス映画『まぼろしの市街戦』を真っ先に思い出す。
双方とも第一次世界大戦を舞台にした映画であるが、 『まぼろし〜』がファンタジックなブラックユーモアに対して、この『戦場のアリア』は、実話を基にした物語である。
クリスマスの夜、敵対し合う国々の兵士達がつかの間の休戦中、友情を交わすと言ったストーリーなのだが、その友情を築くきっかけとなったのは、日本人にもおなじみの『聖しこの夜』である。
クリスチャンでなくとも世界中に知れ渡るこの曲は、まるで清らかな空気のように、この世の醜さを覆いつくし、洗い流すかのよう荒れ果てた戦場にこだまする。
クリスチャンだけでなく、戦場の兵士にはユダヤ教や無神論者もいる。
しかし誰もがこの神聖な歌に耳を傾け、そして次の瞬間、敵対する兵士達が『戦争』と言う意味のない呪縛から解き放たれ、それは国境や人種を越え一人の『人間』としてお互いを見ることに目覚めたのである。
それは逆に彼らにとって、苦難の始まりでもあった。
つかの間の休戦は、この戦場にいる兵士達の秘密であって、互いの上層部は知らない。
どんなに互いを認め友情を育もうとも、彼らは殺しあう運命に逆らうことは出来ないのである。
彼らは互いの生存を願い、また人間として尊重し合い、たった一晩限りの休戦は次の日まで及ぶ。
野ざらしになっていた互いの兵士を葬り、これで最後にしようと約束を交わす。
しかしドイツの砲撃が始まると言う連絡が入ると、ドイツ将校はフランス・スコットランド兵の元に出向き、『砲撃が始まるから、こちらの塹壕へ』と彼らを誘い、死の危険から救う。
砲撃が終わると『今度は報復があるから、こちらの塹壕へ』とドイツ兵をフランス・スコットランドの塹壕へと誘う。
いっそ彼らを憎めたらどんなに幸せであろうか。
彼らを知らなければ、互いを人間として認め合わなければ、こんなに苦しむこともなかったであろう。
軍人としての使命は、『勝利』=『相手の死』である。
しかし彼らには、もう互いを殺しあうことなど出来ない。
ドイツの将校がフランスの将校に『君とは別のどこかで出会いたかった』
『うん、旅先とかでね』
彼らは互いの友情を育んで初めてこの『戦争に対する意義』に疑問を持ったこであろう。
これはすべての戦いに言える事である。
戦争を仕掛ける本人は、決して砲弾の危険に身を晒し、恐怖に怯えることはない。
昨今では、イラク戦争が記憶に新しいが、仕掛けた本人ブッシュ大統領は、完全防備な居心地のいいホワイトハウスでぬくぬくと戦争ゲームに高じている。
取り巻く政治家達も同様、彼らの子息や親族が戦地に赴き、身の危険に晒されることは皆無と言っていいほどである。(全政治家で、戦地に赴いている息子がいるのはたった一人だけ)
昔、上記で述べた映画『まぼろしの市街戦』を観た時、ちょうど湾岸戦争の真っ只中で、『フセインに見せてやりたい』と思った記憶がある。
この映画は『ブッシュ』に見せてやりたい。
しかし、したたかでご都合主義の彼のこと『イラク人とアメリカ人が友情を育むことなど、アメリカがもし最期の時を迎えようともありえないこと』と一喝されることであろう。(笑)
この物語は、兵士達が家族に送った手紙によって、この秘密の休戦が公になり、幕を閉じる。
誰しもこの映画を観終わって、『戦争の意義』について考えさせられることであろう。
このような事実が、第一次世界大戦に存在したということは、素晴らしいことであると思う。
しかし、見終わった後、ひとつ疑問が残る。
それは、、ソプラノ歌手のアナ・ソレンセン(ダイアン・クルーガー)の存在である。
彼女は監督が歴史に加えた架空の女性であり、金髪で赤い服を着て、戦場には存在しない、男たちの夢のすべてを体現している『妻であり母であり、美であり、ぬくもり』だそうである。
確かに彼女は美しい。
しかし、シャープでクールな美貌は『ぬくもりや母性』とは程遠いものであり、また口パク見え見えのオペラシーンは、現実に引き戻され、少々興ざめしてしまった。
この映画に女性の存在が必要不可欠なのか疑問である。
戦場は男のものであって、それでいいのではないだろうか?
私には、戦場までのこのこ付いてくる『自分勝手な女』としか映らなかった。
そして最後に『夫と離れるのはイヤだから一緒に捕虜にしてくれ』とフランス軍に自ら出向くとは何たることか!?
他の兵士にも同様愛する家族がいる。
皆、恋しさに狂わんばかりであろう。
著名なオペラ歌手で、ドイツ皇太子とも親しい立場にいるという特権を持って、夫を追い戦場まで出向くとは、なんとまあ呆れた行動である。
男がいたら女がいないといけないと言うこの世の図式は、戦場には当てはめなくてもいいのではないだろうか。
この女性の存在がなかったら、この映画は反戦映画の秀作として『まぼろしの市街戦』同様語り継がれるだろうに、その点が大いに残念でならない。
Homeへ(映画コーナーには、日本公開前の作品プレビュー多数あります。) |